目の下のくまとりで使用している当院の手術器械である電気メスについて、先日お電話で問い合わせをいただきました。
直接私が回答しましたが、正直、こんなところまで確認されているのかと驚きました。
これもご自身が受ける手術のことを真剣に考えられているからこそと思います。
今回は、このとき質問のあった当院の電気メスに関してのお話です。
電気メスは組織を切開するために使用します。
電気メスが普通のメスと違う点は、止血ができる、止血しながら切開ができるところです。
通常の手術では、皮膚の最初の切開は普通のメスで、内部組織の切開、止血は電気メスで行います。
当院では、経結膜脱脂術でエルマン社の「サージトロンRFナイフ」を使用しています。
特別な電気メスというわけではありませんが、特徴として従来の電気メスの10倍にあたる高周波数帯を使用していることがあります。
これによって不要な「熱凝固」や組織の「炭化」を抑えた手術が可能になります。
「熱凝固」というのは、タマゴを加熱すると固まるように、タンパク質などが熱により変性して元に戻らなくなることです。
熱凝固は血管の止血などに役立ちますが、必要以上にその範囲が広くなると組織への侵襲が増えてしまいます。
RFナイフは、必要な範囲に熱凝固を限定できるので、組織侵襲を低くすることができます。
「炭化」というのは組織が炭のように黒く焼け焦げることです。
炭化した組織は、手術後の感染症の原因になります。
RFナイフでは低出力で凝固できるので、組織の炭化を最小限にすることができます。
弘法筆を選ばずと言いますが、手術の上手な外科医は、私の知るかぎり、みな道具(手術器械)にこだわっていました。
手術は一度きりでやり直しがきかないものです。
外科医というのは職人気質のものが多いので、最高のパフォーマンスを発揮するために、良い道具を使いたいというのは当然のことだと思います。
電気メスはいわば料理人にとっての包丁ですね。
わたしも良い外科医でありたいので、道具にはこだわっています。
個人でクリニックをしていてよかったと思うのは、自分の裁量で道具を揃えることができることです。
勤務医では、自由に手術器械を購入したりはできませんので。
ただし、残念ながらいい道具を使えば、いい手術ができるわけではありません。
道具に負けないよう、技術を研鑽することが大事だと自分に言い聞かせ、安心して手術を任せてもらえる良い外科医でありたいと思っています。